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「意見ひろば」:「人・農地プラン」の現代性と作成初年度における実態
―山形県T市での実態調査から―

西川 邦夫
(東京大学社会科学研究所(JSPS特別研究員)/APC特別研究員)

1.人・農地プラン作成の経緯

 昨年度(2012年度)における自治体農政上の最大のトピックは、「地域農業マスタープラン」、いわゆる「人・農地プラン」の作成であろう。

 人・農地プランとは、農林水産省の説明によると、「高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加等、集落・地域の「人と農地の問題」を解決するために、集落・地域の関係者による話合いにより、今後の中心となる経営体、その経営体にどのようにして農地を集めるか、中心となる経営体とそれ以外の農業者を含めた地域農業のあり方等を定めた」(*1) もの、とされる。平たく言うと、集落・地域の中で「中心となる経営体」(農地集積の対象)と「連携する農業者」(農地貸付希望の農業者)を決め、後者から前者への農地集積を進めることを集落・地域が作成したプランによって担保しようというものである。そして、人・農地プラン作成に対する見返りとして、新規就農者への支援(青年就農給付金)と、貸付希望者への支援(農地集積協力金)が用意される。

 人・農地プランの直接の発端は、2011年10月25日に政府の「食と農林漁業の再生推進本部」において決定された「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」にある。そこでは、「意欲ある関係者を含め、集落ごとの話し合いの中で、今後の地域の中心となる経営体(個人、法人、集落営農)への農地集積、分散した農地の連坦化が円滑に進むよう、これに協力する者に対する支援を推進する。」(p.4)とされている。同本部が「高いレベルの経済連携の推進と我が国の食料自給率の向上や国内農業・農村の振興とを両立させ」(閣議決定、2010年11月26日)ることを目的として設置されたことからも分かるように、人・農地プランはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への加入を睨んで、水田農業の構造調整の加速化を狙ったものとすることができるであろう。

 政府の行動計画を受けて、農林水産省は2011年12月24日に「「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」に関する取組方針」を策定する。その「戦略I」の「1」、つまり最優先課題として「地域農業マスタープランの策定」を掲げ、作成初年度となる2012年度は重点市町村・集落を設定して実施することとした。

 2013年2月現在、人・農地プラン作成意向1,560市町村に対して、876市町村(56.2%)が既に作成済みである。筆者が実態調査を行った直後の2012年9月では、1,541市町村に対して378市町村(24.5%)の作成であった(農林水産省「人・農地プランの進捗状況」)。

 こうして、TPP加入問題という喫緊の外圧が転じて政策化されたのが人・農地プランであり、構造調整の加速化を実現したい農政の強い意向がそこには反映されていると見ていい。本稿では、作成初年度の人・農地プランの実態と効果について、実態調査から評価してみようと思う。

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(*1): 農林水産省(2012)、p.216、を参照。

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