農政調査委員会は農業、農村の現場から提言します - Since 1962

「意見ひろば」:「人・農地プラン」の現代性と作成初年度における実態
―山形県T市での実態調査から―

3.山形県T市における作成初年度の実態

(1)調査対象地の概要

 それでは、実態調査の結果を検討していこう。

 調査は、2012年8月に山形県T市において行った。T市は2005年に旧T市を中心として、1市3町2村が合併して誕生した広域合併市である。市内の農業は旧T市、旧F町、旧H町の平坦水田農業地域と、旧K町の果樹地域、旧As町、旧At町の中山間水田地域に大まかに分けることができる。

 T市においては、出入作の状況を勘案しつつも、基本的には1集落1プランの方針で作成を進めている。表1にあるように、1プラン当り集落数は出入作が激しいT地区(旧T市)でも1.63である。また、調査時点での人・農地プラン作成集落の全集落に対する集落カバー率は市全体で45.0%、最も進んでいるT地区で72.7%に上っている。調査時点においては、T市は全国的に見ても人・農地プランの作成がかなり進んでいる地域であった。

 T市における人・農地プラン作成の速さの要因として、JAによって以前に推進された「集落農業ビジョン」の作成が挙げられる。2007年の経営所得安定対策の導入と合わせて、JAは各集落で集落農業ビジョンの作成を推進した。それから5年が経過し、ちょうど見直しの年に人・農地プラン作成が行われたことは都合がよかったと市の担当者は語っていた。

表1 T市における人・農地プランの地区別(旧市町村別)作成状況

T市における人・農地プランの地区別(旧市町村別)作成状況

(画像をクリックすると拡大します)

資料:T市提供の資料より作成。以下、図表の資料は同じ。
注:2012年8月現在の値である。

(2)旧市町村間の格差

 表1を見てもう1つ気付くことは、地区間(旧市町村間)で集落カバー率の格差が大きいことである。特に、T地区とそれ以外の旧町村部地区との間の格差が大きい。

 また、集落農業ビジョンと人・農地プランの集落カバー率の差(④-⑤)も、T地区と旧町村部地区で対照的であることも分かる。T地区では、両者の差が0%と、集落農業ビジョンでカバーした集落は人・農地プランでも全てカバーしている。しかし、旧町村部地区では集落カバー率を大きく下げている。人・農地プラン作成初年度において、T地区では集落農業ビジョンを元にして迅速に作成が進んだのに対して、旧町村部地区では思ったようには進んでいないことが分かる。

 では、この地域間の格差の原因は何か。以下は推論である。まず、地区による農業生産の違いが考えられる。平坦部における水田農業が展開しているT地区では農地集積に対する農業者の意欲が高いことが考えられるし、一方で中山間地域に所在するAs地区、At地区、また果樹作が盛んであるK地区ではその意欲が低いであろう。しかし、それではT地区と同じく平坦水田農業が展開するF地区、H地区の集落カバー率の低さ、F地区の落ち込みは説明できない。

 そこで考えられるのが、関連機関の間の連携不足である。T市における人・農地プラン作成過程では、市は主に県との調整や事務作業を担い、JAは実際に集落に入って農業者との調整に当たる。市町村合併の結果、市内には、T地区と旧町村部地区を範囲とする2つのJAが存在することになった。行政の機能が市役所本所に集約されていく中で、旧町村部地区のJAとの調整は以前よりも難しくなっているのではないか。人・農地プラン作成のために配置されている人員の少なさも両者の連携を難しくしていることが予想される。市役所本所ですら作成を担当している職員は2~3人であるのに、体制の縮小が進む支所でそれ以上の人員を確保しているとは到底考えられない(*3)。また、旧町村部地区に所在する方のJAも広域合併JAであり、旧町村ごとにある支店機能の本店への統合が進まず、推進体制が整っていないという事情も働いているようである。

 あくまで状況証拠に基づく筆者の推論ではあるが、以前ほどに行政とJAが密接に連携をとって政策遂行に当たるという体制は、現在は望めないと思われる。人・農地プラン作成の状況を見る限り、少なくとも市町村合併のプラスの効果は発生していない。

:::::::::::::::::::::::::::::::
(*3): JAが人・農地プランの推進にどれだけの人員を割いているのかは、今回の調査では明らかにすることができなかった。

1 2 3 4 5ページ