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のびゆく農業:No.1043-1044:郷村振興戦略規画(2018-2022年)

nobiyukunogyo10431044

■原文:
・中国共産党中央委員会・国務院「郷村振興戦略規画(2018-2022年)

■発行:2019年6月15日

■解題・翻訳:河原 昌一郎(福井県立大学教授)

■対象:中国

■ページ数:90p.

■在庫:あり

■目次:

  • 解題
  • 前言
  • 第一篇 規画の背景
  • 第二篇 全体的要求
  • 第三篇 郷村振興の新構造の構築
  • 第四篇 農業現代化の歩みの加速
  • 第五篇 郷村産業の発展強大化
  • 第六篇 環境に調和した美しい郷村の建設
  • 第七篇 郷村文化の繁栄発展
  • 第八篇 現代郷村管理システムの健全化
  • 第九篇 農村民生の保障および改善
  • 第十篇 都市農村融合発展政策体系の改善
  • 第十一篇 規画実施

■解題より:

 近年の中国の経済情勢等をめぐる大きな変化とともに、中国の農業農村は大きな転換期を迎え、これに対応した新たな農業農村政策の構築が強く求められていたところであり、郷村振興戦略規画はこうした要請に応え、今後の農業農村政策の基本的方針を打ち出すものとなっている。
 その一つは農村土地制度の改革である。中国農村では、これまで、多数の零細農家が土地経営を請け負う農村土地請負制度が実施されてきたが、都市化の進展とともに農村労働力の都市流出が増加し、現在では2.4億人4と言われる流動人口が都市に滞留している。これとともに、農村労働力の不足や高齢化が著しく進展した農村が見られるようになり、農村での農業生産の維持、効率的な農業生産等を図る観点から、農村土地制度の改革は不可避の要請とされていた。また、農村土地制度の改革を通じて農家の農村土地に関する権利保護を強化することは、農村社会の安定を図る上でも必要とされていた。2018年12月29日に成立した農村土地請負法の改正は、こうした農村土地制度改革の一環としてなされたものである。
 二つ目は新型農業経営主体の育成である。最近における賃金や資材価格の上昇によって農業生産費が年々増加し、中国農業の国際競争力の低下、さらには喪失という現象が見られるようになった。こうした情勢に対応して中国農業の国際競争力を回復、維持するためには、農村土地の流動化を進めて一定の規模以上の農業経営を確保できるようにするとともに、こうした農業経営を担う主体の育成が不可欠である。また、これとともに、新型農業経営主体の育成は、農業産業化等を通じた農村経済発展のためにも必要とされるものである。新型農業経営主体の類型は、これまでにもすでにいくつか模索されていたが、今後のさらなる推進を図るためにもその内容と方向性が明記されることが適当であった。
 三つ目は食糧政策の改革である。中国は食糧(主として米、小麦、トウモロコシ)の自給政策を基本とし、とりわけ米と麦の食用食糧については、原則として輸入は行わない絶対自給を維持するとしている。ところが、近年の国内での食糧価格の上昇等によって、外国からの輸入圧力が高まっており、適切な生産・価格政策が求められるようになった。中国では、米、小麦については最低買付価格制度が設けられ、米、小麦が一定の価格以下に下がれば政府があらかじめ定められた最低買付価格で買い上げることとされているが、米、小麦の生産費、価格の上昇はこの制度の運用を困難なものとしており、制度の改革が求められている。トウモロコシについては、買付備蓄制度によって、政府が一定量のトウモロコシを一定の価格で買い付け、備蓄、販売する仕組みがとられているが、買付価格の水準によってはほぼ全量を政府が買い上げざるを得なくなるなど制度的矛盾も大きく、抜本的な制度的改革が必要とされている。食糧政策については、このほかにも非効率な国有食糧企業の改革が求められるなど、重要な転換期に差しかかっており、一定の改革方針を示すことが必要とされていた。
 以上、現在の中国の農業農村が直面している三つの課題を掲げたが、もとよりこのほかにも解決すべき課題は多い。郷村振興戦略規画は、こうした各種の課題に対する基本的な解決策、対応方針を示すとともに、今後の中国農村の発展に向けた中長期的かつ総合的な青写真を示すものとなっている。今後、中国の農業農村政策を考える場合は、この郷村振興戦略規画が基本文書として常に参照され、参考とされることとなろう。
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