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短報・コラム:住民参加型地域開発マネジメントにおけるカタリストの役割
―嶺岡牧再生活動のケーススタディ―

1.柱木牧を歩くために

 経塚山という名称は各地で見られるが、筆者が登ったのは、千葉県南房総市の経塚山(310.7m)である。筆者はこれまでに5回登っているが、なかでも、まだ寒さが残る1月下旬に登ったときのことは、とくに印象的である。

 1月19日(土)、筆者らは軍手とノコギリを持参して山に登った。以前報告した日本酪農発祥之地「嶺岡牧」をめぐる取り組み(注1)に関連して、経塚山一帯の「柱木牧」の体験ツアーのために山林を整備することになったのである。

研究者と千葉県酪農のさとスタッフによる山林整備

研究者と千葉県酪農のさとスタッフによる山林整備

 この地域の山々では、経済造林によるスギやヒノキの植林がなされたが、昨今の深刻な林業衰退が原因となり、現在では荒れ山となっている。山を管理する者が不足しており、木々は伸び放題、荒れ放題になり、そのためイノシシなどによる周辺農家への被害も深刻になっている。こうしたことはこの地域だけではなく、全国の農村・中山間地域の抱える重大な問題である。

 林野庁『平成23年度森林・林業白書』(2012年4月)によれば、林業就業者の減少、高齢化が深刻であり、新規就農者の確保や高度技能者の育成が長期的かつ喫緊の課題である。戦後の木材需要の急増、貿易自由化による国内林業の不振、木材自給率の低下などが課題の直接的・間接的な要因となっている。また近年では、森林の多面的機能が見直されてきており、そうした視点からの施策も重要になっている(注2)。

 嶺岡牧の一部である柱木牧には、至る所に江戸時代の遺跡が残されている。牛馬が逃げ出さないように作られた野馬土手、馬捕り場、馬頭観音などを見ることができる。嶺岡牧全体は周囲約70kmであり、それを取り囲むように江戸時代には野馬土手が作られた。まさに「日本のアンコールワット」と呼ぶにふさわしい日本酪農発祥之地としての貴重な「産業遺跡」を保全し、効果的に活用してゆくためにも、継続的な山林整備は欠かせない(注3)。

 そこで、研究者らの呼びかけによって、産業遺跡の保全・活用の重要性を認識された地元の森林組合長や区長が、嶺岡牧・柱木牧体験ツアーのスチュワードとして主体的に参画している。さらに実際に森林組合長は、自主的に経塚山頂の杉木を伐採し、山頂地点からの素晴らしい眺望をもたらした。次節で述べる翌週行われた現地展示型・体験型の“嶺岡柱木牧再生基礎調査報告会”である「柱木牧まるごと体験」では、総勢20名近くの参加者が山頂から美しい景色を一同に見て感激した。山歩きの疲れを忘れてしまう絶景である。

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